夜――…。
昌浩は静まりかえった道を歩いていた。隣には当然の如く、物の怪がいる。
そして、その後ろには、隠形している六合がいた。

「「「「「「「「孫―――!!!!」」」」」」」」
「うわぁぁー!!」
「相変わらずだなぁ孫!」
「いいかげん馴れろよな。孫!」
「孫言うなッッ!!」

昌浩は、潰された体勢のままで怒鳴った。
俗に言う『一日一潰れ』である。

「……逃げたな?もっくん」
「許せ。俺は自分が可愛い」

恨みがましく睨む昌浩にキパッと言ってのける物の怪を、六合は羨ましげに見ていた。
とは言っても、顔に出してはいなかったが…。
そう、六合は昌浩を好いている。
だからこそ、昌浩の夜警に付いて行くのだ。

「いい加減退けよ、おまえら」
「「えー…「「「「「「嫌だ」」」」」」」」
「………何で?」
「「「「「「「「面白いから」」」」」」」」

見事に揃っている。

「ふざけんなー!!」

昌浩は妖をぶん投げた。




安倍邸
紅蓮は晴明に呼ばれたから、今この部屋には昌浩と六合だけだ。

「まったく…。六合も少しは助けてくれたっていいじゃないか」

六合は姿を顕し、言った。

「……、助けてもそう変わりはないと思うが…」
「やってみなきゃわからないだろ?」

昌浩は頬を膨らませて言い、その辺に置いてあったモノを口にした。
六合は黙っていたが、内心そんな昌浩が可愛いと思っていた。
そのぶん、注意力が散漫になっていたのかもしれない。
いきなり、バタンと音がした。
六合が我に返ったとき、昌浩は目の前で倒れていたのだ。

「…昌浩…?」
「ん〜、何〜?六合」

……酒、か……?
そう、昌浩の手には徳利が握られていたのだ。 六合はなぜここに酒があるのかと思ったが、大方晴明あたりのイタズラだろうとあたりをつけた。

「……」

どうしようかと悩んでいると…

「う〜ん…」

と、昌浩が唸った。
そんな無防備な昌浩を見ていると、突然六合に抑えきれない衝動が起こったのだ。
六合は無意識の内に、昌浩の頬に口付けた。
俺は、何をしているんだ?
自分の行動が信じられなくて、六合は呆然としていた。
途端、昌浩が六合に口付け返したのだ。それも、唇に――…。
六合は驚き、困惑した。
そして、しばらく沈黙してから言った。

「……。好き、だ…」
「ぇ…何?俺も六合好きだよ〜?」

昌浩は酔っ払っているのだ。それは六合も十分承知している。
それでも、昌浩の言葉は六合を喜ばせたのだ。
六合は、酔っ払っている昌浩を見つめた。
その口元は、笑っているかのようにも思える。
そして、今度は昌浩の唇に口付けた。




そして、次の日の朝。

「あれぇ?なんか…頭痛い。しかも記憶とんでるし…」

姿を現していた六合は、黙って徳利を指さした。
昨晩は確かに酒が入っていた、だが今は空になっている徳利を。
昌浩はそれを見た途端、顔が強張った。

「え…?俺、もしかして酒飲んだの…?」
「……」

無言の肯定である。

「そんでもって、酔っ払っちゃったり…とか?」
「……」

またしても、無言の肯定である。

「うわぁ〜!俺、もしかして何か変なこと言った!?」

思い切り青ざめた顔で、叫び混じりに言った。

「……。いや…」
「そっか…」

昌浩は、ホッとしたような表情になった。
六合は、何も言っていないとは言わなかったのに…である。




一夜の出来事。
酒が、昌浩と六合の秘めた想いを繋げたのだ。
そしてそれは、六合だけの秘密だ。

それがホントかどうかは、知らないが…。




最初にしてたぶん最後であろう六昌小説です。
これ、小説書き始めの初期段階なので文章可笑しくて笑っちゃいます。

2007.03.移転に伴い一部修正しました。