紅蓮がいなくなるときいて、頭が真っ白になった。




自分の気持ちには、薄々気付いていた。
俺は、紅蓮が好きなのだと。
「孫」と呼ぶその声に反論しながらも、ココロの何処かで心地よく感じていた。
ずっと、聴いていたいと思っていた。
でも、紅蓮は男だし…なによりも神だから、気持ちを伝えることはできない。
そう思っていたんだ。
でも本音は、もしかしたら、否定されるのが怖かっただけなのかもしれない。




ずっと一緒にいられると思っていたんだ。
一緒にいられるなら、それで良かったんだ。
こんなことになるなら、伝えていれば良かったと思ってしまう。
いまさら後悔しても、遅いのに――…。




昌浩は、暗闇の中を一人歩いていた。

「紅蓮…何処?……もっくんやーい、出ておいでよ」

返事はなかった。

「……」

昌浩はふと立ち止まり、そしてポツリと呟いた。

「もっくん……。俺を、一人にしないでよ…」

昌浩は泣く寸前のようで、親に置いていかれた雛のように、心細そうに見える。

「おれ、もっくんがいないと駄目なのかなぁ――…」




紅蓮がいなくなるなんて考えられない。
紅蓮のいない世界になんて、居たくない。
新たな騰陀が現れても、それは紅蓮じゃない。
そんなの、嫌なんだ…。
紅蓮が死ななくて済むのなら、俺は命なんて惜しくない。
何よりも、誰よりも、自分よりも大切な存在で。
それよりも、生きていて欲しいから――。




苦しまないで済むなら、忘れてもいいよ……。
自分で自分を責めないように。
だから、死なないで――。

昌浩の頬に、一筋の涙が流れた。




本当は、命が惜しくないなんて、嘘。
でも、もっくんが……、紅蓮がいなくなるなんて耐えられなかったんだ。
どうしても生きていて欲しいと、願ってしまった。

タトエ、俺ガイナイ世界ダトシテモ。

昌浩は泣きながら、それでも優しく微笑んだ。




「謹製し、奉る――……。

あしき夢…幾たび見ても…ッ…身に、負わじ――!!」




大好きだよ、紅蓮…。
だから、もう苦しまないで――。




勝手に捏造『焔の刃を研ぎ澄ませ』の昌浩独白です。
否、これは初めて最後まで書いた小説だから。
なんて言うか、短いし小説って言えませんね……

2007.03.移転に伴い一部修正しました。