「う〜ん…」
昌浩の声に、ふと我に返った。
自分の膝を枕にして寝転がっていた昌浩は、いつのまにか寝てしまっていたらしい。
あどけない寝顔を見ていると、ふと微笑みが湧いてきた。
目に見えぬ重荷を――自分のものでもないモノを、昌浩はさも当たり前のように背負っている。
まだ、ほんの子供だというのに。
昌浩は何故、自分を許すのだろう。
何故、微笑みかけてくれるのだろう――。
「俺は、おまえを殺してしまうところだったのに……」
呟き、そっと眠っている昌浩の頬を撫でる。
すると、昌浩がふと目を開けた、
「ん……紅蓮?」
「悪い…起こしたか?」
「ううん、大丈夫……?」
昌浩が、ふと眉をしかめた。
なにか、変わったことなんてあっただろうか。
考えていると、昌浩が手を伸ばし、言った。
「どうかした?なにか、あったの?」
顔に触れて、心配そうな表情で見つめてくる。
「なにかって、なんだ?」
「なんか、紅蓮が痛そうな顔してるから」
「……」
何故わかってしまうのだろう。
何故気付いてしまうのだろうか。
誰よりも愛しいこの少年は、こんなにも優しい。
心配をかけまいとしても、悟ってしまう。
こうして、心配してくれる。
そして、それを嬉しいと思う自分がいるのも確かなのだ。
「紅蓮……。もしかして、またあの時のこと――?」
黙り込んでいると、昌浩はなにかに気付いたように問う。
やっぱり、昌浩にはわかってしまうんだな。
苦笑して頭を撫でると、昌浩は起き上がって、ふわりと抱き締めてきた。
「あれは、紅蓮のせいじゃないよ」
幼い子供に言い聞かせるような口調で言った。
「昌浩――」
「紅蓮のせいなんかじゃ、ないんだからね?」
ぎゅっと強く抱き締められる。
許されてはいけないのだとわかっている。
救われてはいけないのだということも、わかっている。
この両手が、血で紅く染まっていることも――。
それでも、今だけは。
今だけは許されたと思ってもいいだろうか?
何よりも大切なこの少年が、自分のせいではないと言って抱き締めてくれる、今だけでいいから――。
自分を抱き締めているその存在を、そっと抱き締め返した。
自分はきっと今にも泣きそうな顔をしているのだろうなと思いながらも、それでも精一杯微笑んだ。
2007.03.移転に伴い一部修正しました。