陽は暖かく、だが空気は冷たい冬の日。
昌浩はパタパタと、安倍邸の敷地内を走っていた。
まだ小さく、幼い昌浩が走るその姿は、とても可愛らしい。
そんな当の昌浩は、何かを捜して走っていたらしい。
それを見つけて、パッと嬉しそうな笑顔に変わる。

「れーん!!」

捜していたのは騰蛇らしい。
呼びかけると、騰蛇の胸目掛けて抱き付いた。

「昌浩、どうしたんだ?」
「あのね、れーんをさがしてたの」

昌浩を受け止め、抱き締めながら聞く騰蛇に、昌浩は見上げながら答える。

「俺を……?」
「うん!」
「そうか」

そう言って騰蛇は微笑み、昌浩の頭を撫でる。
昌浩は、嬉しそうにそれを受け入れていた。




「そうだ、昌浩」
「なぁに?」

昌浩はきょとんとした顔で、首を傾げる。

「俺を捜していたのなら、何か用があったんじゃないのか?」

目線を合わせて問うと、昌浩は意味がわからないというような顔をする。

「う〜んと……えっとね、」

騰蛇に会えたことが嬉しくて、捜していた理由を忘れているらしい。
昌浩はそれを思い出そうと、一生懸命考え込む。
そんな昌浩を、騰蛇は見守っていた。

「あ、おもいだした!!」

しばらくして、昌浩は勢いよく騰蛇のほうを見る。

「ん?」
「あのね、きょうは『おしょうがつ』なんだって!」
「あぁ……そういえば」

今日は元旦だったな、と騰蛇は考える。

「だからね、あけましておめでとうございますってれーんにいいにきたの」

にっこりと笑って言う昌浩に、騰蛇も笑顔になる。

「そうか、ありがとうな」
「うん!れーん、あけましておめでとうございます」

昌浩はそう言って、小さく頭を下げた。お辞儀のつもりなのだろう。

「あけましておめでとう、昌浩。今年もよろしくな」

そうして、またしても騰蛇は昌浩の頭を撫でる。
昌浩は先程と同じように嬉しそうだったが、何故か、何かを言いたそうな顔をしていた。

「……?昌浩、どうかしたか?」

騰蛇はそんな昌浩に気付き、不思議そうに問い掛ける。

「んっと……」
「なんだ?言ってみろ、昌浩」

そう言うと、昌浩はおずおずと口を開いた。

「あのね……れーんはおとしだま、くれないの?」
「…………、お年玉……?」

昌浩の思い掛けない一言に、騰蛇は聞き返してしまう。

「うん。あのね、じーさまと、ちちうえとははうえはくれたの。れーんはくれないの?」

首を傾げて聞く昌浩は可愛い。
可愛いが、騰蛇はお年玉なんて用意していなかった。
まさか、十二神将である騰蛇がお年玉をねだられる日がくるなんて、本人も予想すらしていなかったのだ。
用意していないものは、渡せる訳がない。

「れーん、くれないの……?」

騰蛇が困り、黙っていると、昌浩は泣きそうな顔になり、呟く。
昌浩が泣いてしまうのではないかと、騰蛇は大焦りだ。

「あ、いや、その……ッ」

とは言っても、用意していないのだからあげられる訳がない。
その場で用意して渡せば、とも思うのだが、如何せん神将が金銭の類を持ち合わせている訳もない。
騰蛇が焦っていると、昌浩は痺れを切らしたのか、目に涙を溜めて騰蛇を睨みつける。

「もういいもん、れーんのバカ――!!」
「あぁ、昌浩ッ!!」

言い捨てて、昌浩は走り去っていった。

「昌浩に馬鹿って言われた……昌浩に馬鹿って……馬鹿って言われた……」

後には、ショックを受けた騰蛇が独り取り残されていた。







それから、昌浩と顔を合わせる度に泣きそうな顔で睨みつけられた騰蛇は、晴明に頼み込んでお年玉を用意してもらったのだとか――。




年賀フリー小説です。
チビ昌浩に振り回される紅蓮 笑
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携帯の方は言ってくだされば何とかします 笑

2008.01.10.公開
2008.02.29.フリー期間終了