「れーん!!」
捜していたのは騰蛇らしい。
呼びかけると、騰蛇の胸目掛けて抱き付いた。
「昌浩、どうしたんだ?」
「あのね、れーんをさがしてたの」
昌浩を受け止め、抱き締めながら聞く騰蛇に、昌浩は見上げながら答える。
「俺を……?」
「うん!」
「そうか」
そう言って騰蛇は微笑み、昌浩の頭を撫でる。
昌浩は、嬉しそうにそれを受け入れていた。
「そうだ、昌浩」
「なぁに?」
昌浩はきょとんとした顔で、首を傾げる。
「俺を捜していたのなら、何か用があったんじゃないのか?」
目線を合わせて問うと、昌浩は意味がわからないというような顔をする。
「う〜んと……えっとね、」
騰蛇に会えたことが嬉しくて、捜していた理由を忘れているらしい。
昌浩はそれを思い出そうと、一生懸命考え込む。
そんな昌浩を、騰蛇は見守っていた。
「あ、おもいだした!!」
しばらくして、昌浩は勢いよく騰蛇のほうを見る。
「ん?」
「あのね、きょうは『おしょうがつ』なんだって!」
「あぁ……そういえば」
今日は元旦だったな、と騰蛇は考える。
「だからね、あけましておめでとうございますってれーんにいいにきたの」
にっこりと笑って言う昌浩に、騰蛇も笑顔になる。
「そうか、ありがとうな」
「うん!れーん、あけましておめでとうございます」
昌浩はそう言って、小さく頭を下げた。お辞儀のつもりなのだろう。
「あけましておめでとう、昌浩。今年もよろしくな」
そうして、またしても騰蛇は昌浩の頭を撫でる。
昌浩は先程と同じように嬉しそうだったが、何故か、何かを言いたそうな顔をしていた。
「……?昌浩、どうかしたか?」
騰蛇はそんな昌浩に気付き、不思議そうに問い掛ける。
「んっと……」
「なんだ?言ってみろ、昌浩」
そう言うと、昌浩はおずおずと口を開いた。
「あのね……れーんはおとしだま、くれないの?」
「…………、お年玉……?」
昌浩の思い掛けない一言に、騰蛇は聞き返してしまう。
「うん。あのね、じーさまと、ちちうえとははうえはくれたの。れーんはくれないの?」
首を傾げて聞く昌浩は可愛い。
可愛いが、騰蛇はお年玉なんて用意していなかった。
まさか、十二神将である騰蛇がお年玉をねだられる日がくるなんて、本人も予想すらしていなかったのだ。
用意していないものは、渡せる訳がない。
「れーん、くれないの……?」
騰蛇が困り、黙っていると、昌浩は泣きそうな顔になり、呟く。
昌浩が泣いてしまうのではないかと、騰蛇は大焦りだ。
「あ、いや、その……ッ」
とは言っても、用意していないのだからあげられる訳がない。
その場で用意して渡せば、とも思うのだが、如何せん神将が金銭の類を持ち合わせている訳もない。
騰蛇が焦っていると、昌浩は痺れを切らしたのか、目に涙を溜めて騰蛇を睨みつける。
「もういいもん、れーんのバカ――!!」
「あぁ、昌浩ッ!!」
言い捨てて、昌浩は走り去っていった。
「昌浩に馬鹿って言われた……昌浩に馬鹿って……馬鹿って言われた……」
後には、ショックを受けた騰蛇が独り取り残されていた。
それから、昌浩と顔を合わせる度に泣きそうな顔で睨みつけられた騰蛇は、晴明に頼み込んでお年玉を用意してもらったのだとか――。
2008.01.10.公開
2008.02.29.フリー期間終了