朝、昌浩は自室で一人、何かをしていた。
ぶつぶつと何かを呟きながら――。




「どうして、どうして押さえつけてるのにこんなにでかくなるんだよ!」

昌浩はさらしを巻きつけながら文句を言っていた。毎日押さえつけてるハズなのに成長する胸に……。

「はぁ〜…なんで俺、女なんだろう…」

昌浩がため息をついた途端、

「あら、なんでそんなもったいないこと言うのよ。せっかく若菜似の綺麗な顔してるのに」
「……太陰」

そう、昌浩は正確には一人ではなかった。
隠形している太陰が側にいたのだ。今は、姿を顕しているが――。

「だって…毎朝これやるの、けっこう大変なんだよ?」
「そりゃあ、男として生きるのには不便かもしれないけどね…。
でもそんなの、それを決めた晴明に言わなきゃ解決なんかしないわよ?」

太陰はしれっと言う。

「……じい様に言っても意味ないと思う。
『あぁ…じい様は悲しい、悲しいぞ。小さい頃はよく、じい様のお手伝いをする〜と言って後をついてきていたと言うのに…。
おまえがそう言ってくれたからこそ、おまえが男として生きていく為にいろいろ手を尽くしてきたというのに…。
おまえはそんなわしの努力を水の泡にするというのか。あぁ…じい様は悲しい、悲しいぞ』
それより前から男の格好してるだろうが、あのたぬき――っ!!」

昌浩は自分で言ったくせに、本気で苛つき、暴れていた。
――晴明なら言うわね。
太陰は昌浩を見ながら、内心昌浩の意見に賛成していた。

「それより…」
「へ?」
「さらし巻き直さないといけないんじゃない?それ」
「……あ…」

昌浩は巻き終えないまま暴れていたのだ。
もちろん、初めから巻き直しだった。
そして、昌浩は溜息を吐いた。




「おはよう昌浩」
「あ、おはよう彰子」

昌浩が朝食を食べに行くと、彰子が話しかけてきた。
彰子は更に、昌浩の隣――というか足元にいる物の怪にも言う。

「もっくんもおはよう」
「おう、彰子。…おい孫、晴明がいるぞ」
「孫言うな!物の怪の分際で」
「おれは物の怪じゃない」
「って…じい様…?」

昌浩は、先ほど物の怪が指し示した方向に顔を向ける。

「昌浩や、じい様には挨拶をしてくれないのか。あぁ、昌浩はきちんと挨拶が出来る子だと思っておったんじゃがなぁ…わしの勘違いだったのかのう。
昌浩、わしはそんな子に育てた覚えはないぞ」

単に気付かなかっただけの昌浩が顔を向けた途端、晴明はたたみかけるように言う。

「……おはようございます、じい様」

昌浩は心中で思いっきり反抗していたが、実際言わないだけ成長したと言えるであろう。
言わないだけで、態度には出ていたが…。

「おはよう昌浩。ほれ、ちゃっちゃと食べなさい。出仕に遅れるなんてことになったら、わしは恥ずかしくて誰にも顔向けできん」

――だったら見せるな――――!!
昌浩は心中で叫び、そして震える声で言う。

「……っ。えぇ、わかってますとも!もちろん!!」

昌浩は用意された飯の前にどかっと座り、食べ始めた。

「おまえ…ホントにいい加減にしないと、昌浩に嫌われるぞ」

物の怪は晴明の隣でポツリと言った。

「そうだなぁ。昌浩の反応が面白いから、ついついな」

答えは、物の怪にだけ聞こえる大きさで返ってきた。
彰子は、相変わらず慣れない昌浩と晴明の言い争いにどうすることもできず、ただ立っていた。
後で昌浩に八つ当たりされるであろう物の怪は、内心溜息を吐いていたのであった。




初めて書いた太陰。微妙ですねぇ……。
これは短くてゴメンなさいって思った記憶があります。

2007.03.移転に伴い一部修正しました。