彰子が唐突に切り出した。
もちろん昌浩には、何のことだかさっぱりわからない。
「……何が?」
「もっくんのことよ」
「もっくんのことって…」
「だって昌浩、もっくんと顔合わせると顔が赤くなるじゃない」
「ぁ……」
彰子の指摘に、昌浩はほんのり頬を染めた。
「彰子…気付いてたの?」
「あんなに毎度のことじゃ気付くわよ」
「そ、そう…?」
そんなに毎度のことだったのかな、と昌浩は思った。
「なんでかよくわからないんだけど、もっくんと目が合ったりすると恥ずかしいんだよね。
俺もすごい不思議なんだよ。彰子はなんでだと思う?」
本当に気付いていないのか、昌浩は問う。
「なんでって…昌浩気付いてないの?」
「気付くって、何が?」
昌浩は、訳がわからないという顔をする。
それを見た彰子は、一瞬呆れたような顔になった。
昌浩って、もしかしなくても鈍いのね…。
「もっくんのことを好きって気持ちよ」
「もっくんのこと…?うん、好きだけど…。それが関係あるの?」
きょとんとした顔で返された。
「昌浩…その好きじゃないの」
「他に好きってあったっけ……」
昌浩は、真剣に考え始める。
「恋愛感情の好きがあるでしょう?」
「……あぁ、あるね」
彰子は、やっと伝わったと思い、ホッとする。
が、次の一言で脱力するハメになった。
「でも、それがなにか関係あるの?」
昌浩って、人の話ちゃんと聞いてるのかしら。
根気よく説明された昌浩は、彰子の言葉の内容を理解していた。
俺がもっくんのことを、恋愛感情で好き――?
そこまで考えた途端、昌浩は沸騰したかのように、真っ赤になった。
彰子はクスッと笑い、言う。
「やっと自覚したみたいね?」
「……」
昌浩は恥ずかしくて仕様がなかったらしく、言葉を返すことができなかった。
彰子は、そんな様子の昌浩を可愛いと思ったようで、微笑んで見ていた。
が、そこで終わる彰子ではなかった。
「それで、どうするの?」
彰子は聞いた。
「え、どうするって…何を?」
「告白よ。もっくんに伝えるの?」
「こ…ッ」
告白!?そんなの無理ですから!!
昌浩は言葉にできなかったが、その代わりに顔が十分語っていた。
が、一瞬後、昌浩は考え込み始めた。
彰子は、そんな昌浩を不思議そうに見ていた。
それから少し経ち、昌浩は彰子に告げる。
「ねぇ、彰子。俺決めたよ」
「昌浩…?」
「もっくんには言わない。俺は確かにもっくんが好きだけど、別に相思相愛になりたい訳じゃないし、それに…もっくんの側にいられればそれでいいから――」
昌浩は、彰子に向かって微笑んだ。
彰子は一瞬、その表情に見入った。
そして、昌浩に言う。
「昌浩がそれでいいと思ったなら、それでいいんじゃないかしら」
「そうかな…」
「えぇ、私はそう思うわよ」
彰子は微笑んで言った。
昌浩はそれを聞いて、照れたように微笑み返した。
紅蓮が好き。
その気持ちは嘘じゃないけれど、伝えようとは思わない。
だって、俺は紅蓮が側にいてくれることが嬉しい。
そして、ずっと側にいたいと思う。
それだけで、俺は幸せになれるから――。
俺は、そんな小さな幸せを大切にしていきたい。
だからこの想いを知るのは、俺と彰子だけでいい。
秘めた想いを胸に、俺は紅蓮の側に居続ける。
それが、俺の幸せだから――。
2007.03.移転に伴い一部修正しました。